青野くんに触りたいから死にたい

「恋とホラーはよく似てる」――とあるアイドルソングの歌詞だが、まさにこのフレーズを体現するような漫画がある。それが『青野くんに触りたいから死にたい』だ。

地味で大人しい女子高生・優里と、付き合ってすぐに死んで幽霊になった恋人・青野くんの純愛ストーリー……なのだが、恋愛漫画と思って夜中に読むと、本気で後悔する。ふいに挿し込まれるホラー要素が本気で怖いのだ。それも、衝撃的な絵面で脅かすというより、もっと日常の中に溶け込んだ、這い寄るような怖さである。

どこまでも一途で純粋な優里と、幽霊となっても彼女を見守る青野くん。枕や電柱、お互いの手指を介してなんとか触れあっている感覚を味わおうとする2人は、滑稽で、かわいくて、切ない。
しかし、あるきっかけで青野くんが優里に「憑依」してしまうようになると、事態は急変。ふとした瞬間に恐ろしい別人格へ豹変するようになった青野くんは、しきりに優里の体に「入って」こようとする。「入れてー、入れてー」……怖い、でも愛しいから拒めない。そんな優里の周りで次々に起きる怪奇現象。青野くんの友人・藤本や、ホラー好きのクラスメート・堀江さんも巻き込み、まるで先の読めない展開が続く……。

怖い、怖い、でも読んでしまう。息をひそめてページをめくっていくと、そこに描かれているのはやっぱり純愛で、ほっこり心があたたかくなったかと思えば、あまりの切なさに泣いてしまったり、シュールなギャグに笑ったり……その1ページ後に突然、ぞわっとするシーンが来たりするから、感情がいそがしい。

そして怖いのは、豹変した青野くんや怪奇現象だけではない。主人公・優里の一途すぎる恋心や、揺れ幅の大きい感情もまた怖いのだ。
友人のいない彼女にとって、青野くんと過ごす時間は、これまで生きてきた中で感じたことのない幸福だった。たとえ、幽霊になっても。でも、いつかは成仏しないといけない――「この世界ってクソじゃんねぇ」。ふだんは大人しくてやさしい彼女が垣間見せる狂気は、怖くって切ない。

象徴的なのは、第1話、導入部のシーン。幽霊となった青野くんには触れられないことを知った優里は、自ら死のうとする。制止する青野くんに彼女は叫ぶ。

「青野くんは幽霊でわたしは生きてるから君に触れないんでしょう!? だったらわたしが死ぬしかないじゃない 君は生き返れないんだから!!」

そう、この作品のタイトルは比喩でもなんでもなく、本当に主人公は「青野くんに触りたいから」「死にたい」のだ。
純愛と狂気、まさにそんな言葉がぴったりの作品です。

青野くんに触りたいから死にたい
椎名うみ/講談社(アフタヌーンKC)

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

PAGE TOP