第七官界彷徨

“私はひとつ、人間の第七官にひびくような詩を書いてやりましょう。”

「第七官」——人間の五官と第六感を超えたさきにある、あたらしい感覚のこと。

『第七官界彷徨』は、夢の中みたいにちょっと不思議で、かわいいお話。といっても、SFでもファンタジーでも童話でもない。詩人を志す少女・町子が、祖母の元を離れ、二人の兄と従兄弟と暮らした日々のことが、淡々とつづられる。
ただ、文体やモチーフが絶妙で、「第七官」の世界をふわふわ彷徨うような、おとぎ話のような空気感がつねに漂っている。大きな事件は起きないけど、つぎつぎに予想もつかない展開がつづくので、読んでいてたのしい。

町子をとりまく兄弟たちは、それぞれちょっと変わった人たち。長兄の一郎はまじめな精神科医で、家でもある研究をしている。次兄の二郎は学生で、“植物の恋愛”の実験に明け暮れている。従兄弟の三五郎は音楽学校の受験生で、何かにつけて町子にちょっかいをかけてくる。
みんなバラバラに見えるけど、じつはみんな、恋をしている、という点で共通している。ちょっとおかしくて切ない恋。その恋のために、分裂心理学を研究したり、部屋中でコケを栽培したり、壊れかけたピアノを鳴らしてコミックオペラをうたったりしているのだ。
そして町子はというと、彼女もまた、恋をしている。その恋はちょっと意外な結末をむかえるんだけど、それもまたとっても町子らしい。

“僕の好きな詩人に似ている女の子に何か買ってやろう。いちばん欲しいものは何か言ってごらん”

こんなことを言われたら、恋に落ちるに決まっているし、

”われにくびまきをあたえし人は遥かなる旅路につけりというような哀感のこもった恋の詩”

だって書いてしまうよね。

第七官界彷徨
尾崎翠著 河出文庫

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