山人として生きる

前職の最後に携わった本で、一生忘れることがないと思う自分にとって大事な1冊だ。単行本は「ラスト・マタギ」というタイトルだったが、文庫化に際し、志田さんが意図していた言葉に合わせて改題された。

この本に関してはかなり個人的な話が多くなってしまうのはご了承いただきたい。「山人として生きる」は大井沢での志田さんとの出会いから誕生した。

趣味のフライフィッシングで山形県にある大井沢に行った際に、志田さんの息子さん夫婦と知り合い、ひょんなことから、志田さんのご自宅に寄り、鮎の塩焼きをいただくことになった。その際に、私の仕事を知った志田さんから、「実はこんなものがあるんです」と書きためた原稿を見せていただいた。

膨大な量の原稿用紙の束。鉛筆でびっしりと書かれた原稿は年代も混ざり合って混沌としていた。しかしざっと目を通しただけでも、それがどれだけ貴重な記録かがわかった。

大切にお預かりし、会社へ持ち帰った。自分で本にしたい。しかし、当時は雑誌の編集部にいたこともあり、どうやって企画を通して書籍化するかを悩んでいた。とっても縦割りの会社だったし。

そんなときに、親しくしていただいていた書籍編集者の先輩古里氏に相談した。古里氏は僕の悩みをすんなり(表向きは。裏ではめちゃくちゃ大変だったと思う)解決してくれた。僕はゲラを読むくらいでほとんど全ての作業をやってくださった。

膨大な原稿は戦前の話、戦中の話など、本筋からずれてしまう話もあって、それはそれで貴重な記録なのだが、泣く泣く割愛された。そうして、ほぼ志田さんの原稿を現在の本の形に章立てしてまとめることができた。

単行本ができたとき、志田さんは96歳。とても喜んでくださった。そして100歳で天寿を全うされ、その後文庫化された。単行本の時は部数的には会社にはあまり期待されていなかったようだが、どんどん刷り増しされ、古里氏と二人で喜んだものだ。

文庫化の際は自分は前職を離れていたのだが、心ある編集者が引き継いでくれて、とても丁寧に文庫にしてくださった。

この本に触れる人は何か心が動かされるのだと思う。志田さんの思い、経験などを誰かに伝えたい、そんな気持ちになるのではないだろうか。

ウサギからクマまでを季節ごとに追いかけて狩猟し、山の植物を採取し、一方で山の環境保全にも務めた。生涯で50頭以上のクマを仕留めた伝説の猟師だ。この本には、ところどころに生きる素晴らしさが詰まっている。

「本物のマタギは志田さんの世代で最後だ。ラスト・マタギの言葉を残しておく意義は深い」と角幡唯介氏(ノンフィクション作家、探検家)が単行本の帯に推薦文を寄せてくれた。これも個人的にはめちゃくちゃ嬉しかった。

ここまでを読んで、少しでも興味を持ってくださった方はぜひ文庫を手にとってみてほしい。

山人として生きる
志田忠儀著/角川文庫

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