少女地獄

少女地獄。

耽美的で退廃的で怪奇的で幻想的な空気感が、字面からしてむんむん漂っている。15歳の私を多分に惹きつけたのも無理もない、最高に”そそる”タイトルだと思う。

けれども読み終えたとき、「あれっ?」と拍子抜けしたことを覚えている。「どこらへんが少女で、どこらへんが地獄?」と。15歳の私には、この作品に描かれている少女の地獄とはなんたるか、よくわからなかったのだ。

それから幾年が経った今になって再読してみると、なるほどこれは地獄かもしれない、と思う。

『少女地獄』は、『ドグラ・マグラ』で有名な夢野久作の短編集。「何んでも無い」「殺人リレー」「火星の女」の三編で構成される。いずれも書簡形式&語り口調で読みやすいし、謎の多い人物が事件を起こす、というミステリーのような側面もあるので、ぐいぐい読める。

「何んでも無い」は、誰からも愛されていた可憐な看護婦・姫草ユリ子の遺書から始まる。読み進める内に、彼女の真の姿と、自ら死を選んだ理由が明らかになる。
理想の自己像を手放せない人は少なからずいると思うけど、姫草ユリ子ほど完璧に没入できる人はそういないでしょう。彼女、現代なら「完璧なアイドル」として一時代を築いたんじゃないかな。でも、完璧であるほど、ひとつのほころびですべてがだめになっていく、というかなしさは、変わらないかもしれないけど。

「殺人リレー」は、“結婚詐欺師で殺人者”と噂されるバス運転士・新高に魅了され、疑いながらも結婚してしまう女車掌の話。
三編の中ではこれがいちばん好き。というのも、いちばん共感できる地獄だったので。「平凡への絶望」と「非凡へのあこがれ」がときに倫理や生命の安全すら凌駕するというのは、傍から見たらばかげているし、幼稚なんだろうけど、だからこその「少女地獄」という……。

「火星の女」は、“火星の女”と呼ばれる女生徒の焼死事件に始まり、次々に怪事にみまわれる県立女学校が舞台。
新聞記事の抜粋から始まるのだが、この見出しがどんどんエスカレートしていくのがおもしろい。『県立高女の怪事 ミス黒焦事件』→『森栖校長失踪 消え失せた遺書と不可思議な女文字の手紙』→『県立高女メチャメチャ 森栖校長発狂! 虎間女教諭縊死! 川村書記大金拐帯!』ときて、この時点でもう「これ以上ないくらいメチャメチャじゃん!」と思うのに、『森栖校長の帽子 十字架上に 持主不明の花簪と共に市内天主教会にて発見さる』とまさかの展開でとどめを刺して来る。この時点では正直笑ってしまったんだけど、だんだん事の真相が明らかになるにつれて、胸がギュッとなる。

いずれも夢野久作らしい、怪奇的な雰囲気は漂っているんだけど、そう非現実的なことは起きない。15歳の私がタイトルから連想したような、“怪しい美少女をとりまく幻想世界の物語”、ではない。ただ、自己の心理世界に引きずられて破滅に向かう女の心理と顛末が描かれているんだけど、これを「少女」の「地獄」と呼ぶのならそうなのだろう、と。改めて秀逸なタイトルだと思う。

少女地獄
夢野久作/創元推理文庫

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